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闘魂 サバイバル生活者のブログ

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CIAと戦後日本

有馬哲夫「CIAと戦後日本」(平凡社新書)読了。感想はたとえば「読書メモ」。読書メモさんは、普天間基地問題に引き寄せた感想を記しているが、ぼくは政府高官の「仕事」を垣間見た気がした。

(引用開始)

…本書が基づいているCIA文書は、このCIA長官の弟が、国務長官の兄にかなり重要な政治的インテリジェンスを与えていたことを示している。この兄弟の連携が、当時のアイゼンハワー政権の外交の強みだった。

この強みが活かされた例が、日ソ国交回復交渉だった。ジョン・ダレスは、CIAの報告書から、この交渉の日本側プレーヤーである重光葵(当時、外務大臣)、鳩山一郎(当時、首相)、河野一郎(当時、農林水産大臣)の動きを逐一把握していた。そして、鳩山が進めようとする日ソ国交回復交渉のアキレス腱がどこにあるかを知っていた。そこをついて、日ソ国交回復交渉によってアメリカの国益が損なわれることがないよう手を打った。

このときのアメリカの国益をまとめるとおおむね次の二つになる。

(1)北方領土問題が日ソ間で解決することを妨げ、日本人の非難の目がアメリカの沖縄占領に向かないようにする。
(2)日本にソ連に対する強い敵意を持ち続けさせ、日本がソ連の友好国になったり、または中立政策をとったりすることなく、同盟国としてアメリカの側にとどまらせる。



(引用終わり)

●日露の接近はアメリカの国益に反する。同様に日中の接近はアメリカの国益に反する。沖縄問題で揺れたあと、日中の領土問題で揺れたのは、記憶に新しい。日米同盟を試すには、尖閣問題と北方領土問題で騒げばいい。逆に、日本にしてみれば、日中・日露関係を安定させることが、米国との基地問題を解決するための大前提であることがわかる。

(引用開始)

…敗戦後、日本は、沿岸警備のためであっても、船舶護衛のためであっても、武器を積んだ艦船を航行させることも、飛行機を飛ばすこともできなかった。

正力が建設を計画していたマイクロ波通信網は、テレビ通信だけでなく、移動体通信、長距離通信、レーダー、航空管制にも使えた。

むしろ主目的は、実はテレビ放送というよりは、軍事通信だったのだ…

…台湾でも、韓国でも、その他のアジアの国々でも、テレビが導入される前には、まず軍事通信網としてのマイクロ波通信網が建設されている。そのあと、その国の安全保障体制が整い、国民が豊かになってテレビ受像機を買えるようになったとき、この軍事回線は民生用、つまりテレビ放送用にも使われるようになるのだ…

(引用終わり)

●同じ著者の著書で日本テレビの出自をはっきり示しているらしい。正力は、米国に魂を売る、強欲にとりつかれた利権屋であったらしい。国の将来を憂う高官たちとの違いは際立っている。また、政治家を陥れるためネガキャンを張るようすが描かれている。昔からあるメディアの常套手段なのだと思った。

(引用はじめ)

…野村はつねに日本の国のためを思い、駆け引きや裏切りや嘘を嫌った。政治も本来は嫌いだ。

正力は日本のためというよりは、自分の利益を優先させようとした。日本の再軍備に手を貸そうとするアメリカを利用し、それをかさにきて電電公社との約束を反古にしようとしている。

また、一方では、造船疑獄など政局が不安定になっているときに、世論に影響が大きい大新聞読売の社主であることを利用して、吉田に借款の政府承認や電気通信免許の発行を求めた。これは社会の公器たる新聞を私しているといっていい。

さらに、吉田が正力の要求を拒絶すると、正力は読売新聞を使ってあからさまな反吉田キャンペーンを張った。

これは、鳩山が政権を握ったとき、正力に閣僚ポストを用意するという密約があったからだという憶測を生んだ。本書73頁で見たCIA文書は、この憶測が事実だったことを明らかにしている。

こんな正力では、野村のおかげで手にしつつある巨額借款も、それによって建設するマイクロ波通信網も、自らのために、そして政治的野心のために利用するだろう。これは許しがたいことだ。

そう思った野村は、反吉田、再軍備促進派である鳩山や重光の陣営にいる筈なのに、正力の借款問題に関しては、吉田・電電公社支持に変わった…

(引用おわり)

●ありていにいえばアメリカのエージェントたる野村である。しかし、当時の日本を取り囲む状況を考えるとやむをえないともいえる。米国の属国として日本の再軍備がなされた。それは具体的にはつぎのようなことだ。こうした記述をみれば、日本側も一枚岩ではないという当然のことになにやら感慨を覚える。陰謀論は、この辺の交渉を単純化してしまう。

(引用はじめ)

…日本の保安隊と駐留アメリカ軍と共同で作戦行動を取るためには、アメリカ軍の通信網と互換性をもった軍事回線が望ましい。とくにレーダーやファクシミリやテレビなど映像に関わるものでは方式の問題がでてくるので、同一方式のほうがいい。

さらに航空基地と民間航空の空港が同じになる場合も多いので、民間空港会社と同じであれば、問題は一挙に片づく。それに続く正力の借款の返済のことや、電電公社への回線のリースのことなどは、アメリカ側には付随的な問題だったろう。

アメリカ側と野村たちにとって大切なことは、このマイクロ波通信網を建設するのが日本テレビか電電公社か、借款をだすかださないか、ではなかった。一刻もはやく、このマイクロ波通信網を建設することだったのだ。

こうして、野村とキャッスルは、正力の手からマイクロ波通信網計画を取り上げ、それを電電公社に渡すことにし、それに成功した…

(引用おわり)

●野村吉三郎をはじめ、日米のパイプを持っていた日本人が多数本書に登場する。そうした人物をジャパンロビーと称している。副島隆彦氏のいうジャパンハンドラーとそのカウンターパートが目白押しである。

ここには取り上げなかったが、日本のインテリジェンス機関の復興を目指した緒方竹虎の事績(?)も本書では取り上げられている。インテリジェンスというと何か特殊な訓練を受けた忍者のようなイメージを持ちそうになる。しかし、それは違う。

それにしても本書における正力の評価はさんざんである。岸信介やこの正力松太郎といった巣鴨組の足跡を追いかけるのは、もしかして、有意義なことかも知れない。国民かアメリカか、自民党がどちらの方を見て、政治をしていたのかをこの際はっきりとさせておく必要があるのではないだろうか。それは前原、長島らのいる民主党政権の問題でもあるからだ。

(引用はじめ)

情報機関とはいろいろな意味で使われるが、大別すると情報を収集し、それを分析・評価するインテリジェンス機関と、逆に、情報やプロパガンダなどを流す情報機関の二つに分けられる。緒方が作りたいといっているのは、情報、それも放送や通信の情報収集に中心を置くインテリジェンス機関だといえる。

(引用終わり)

●誠に穏やかな話である。しかし、ネット上で漏れ聞くのは、もっと手荒い話である。仮に犠牲者が出たとしても50年経って、文献の中に出てくるのは、わずか一行の言及で終わってしまう。いや、言及があればまだましである。文献の中で言及されるのは例外であって、普通は闇の中へ埋もれてしまうのだ。

米国との関係を見直す。基地から出て行ってもらう。文字にすればたったこれだけのことだが、それは言うほどに容易いことではない。いまとなっては、鳩山由紀夫内閣のたどった軌跡もわかるような気がする。要するに、メディアの報道だけを聞いていてもその背後のやりとりはわからないということだ。それは、本書のような「作品」を通して、なんとか体感できるのみである。


2010年10月15日 根賀源三


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